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東京高等裁判所 平成3年(行ケ)270号 判決

大阪市中央区平野町4丁目1番2号

原告

オージー情報システム株式会社

同代表者代表取締役

国重茂幸

同訴訟代理人弁理士

杉本丈夫

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 深沢亘

同指定代理人通商産業事務官

大場義則

廣田米男

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が昭和61年審判第1103号事件について平成3年9月19日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文と同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和59年1月20日、緑の色彩をもって描かれた別紙に示す欧文字から成り、第11類「電気機械器具その他の本類に属する商品」を指定商品とする商標(以下「本願商標」という。)について登録出願(昭和59年商標登録願第4287号)をしたところ、昭和60年11月9日、拒絶査定を受けたので、昭和61年1月9日、審判を請求し、昭和61年審判第1103号事件として審理されたが、平成3年9月19日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は、同年10月28日、原告に送達された。

2  審決の理由の要点

本願商標は、上記の構成からなり、第11類「電気機械器具その他の本類に属する商品」を指定商品とするものである。

一方、登録第1005973号商標(以下「引用商標」という。)は、「ORDIS」の欧文字を横書きにしてなり、第11類「電気機械器具、電気通信機械器具、電子応用機械器具(医療機械器具に属するものを除く)電気材料」を指定商品として、昭和45年10月29日に登録出願、昭和48年3月26日に設定登録され、昭和58年5月20日に商標権存続期間の更新登録がされている。

本願商標及び引用商標の欧文字は、いずれも格別の意味を有しないいわゆる造語を表したものと認め得るところであり、かかる特定の語義を有しない造語より成る商標にあっては、これに接する取引者、需要者は、我が国における英語の普及度からして、最も親しまれた英語の発音にならいそれが無理なく自然に英語風に読み得る場合には、その読み方によって称呼されることが少なくないものとみられるところである。

そうすると、両商標は、親しまれている英語風読みにならい、本願商標は「OGIS」の文字に相応して「オージス」と、他方、引用商標は「ORDIS」の文字に相応して「オーディス」と読んで無理がなく自然であるから、それぞれ、「オージス」、「オーディス」の称呼を生ずるものとみるのが相当である。

そこで、本願商標から生ずる「オージス」の称呼と引用商標から生ずる「オーディス」の称呼とを比較すると、両称呼は、いずれも語頭の「オ」音及びそれに続く長音(ー)並びに末尾における「ス」音を同じくし、異なるところは中間部において「ジ」と「ディ」の各音に差異を有するものである。

しかし、前者の「ジ」音は、有声の破擦音(d〓)と母音(i)との結合音であるのに対し、後者の「ディ」音は、「デ・イ」と個別には発音されずに一音節として一気に発音される有声の破裂子音(d)と母音(i)との結合音であり、いずれも子音が歯茎音というその調音位置を同じくする近似した音といえるばかりではなく、その帯同する母音をも同じくし、しかも、これらの差異音が比較的聴別し難い中間に位置し、必ずしも明瞭に聴取されるとはいえないこととも相俟って、それぞれを一連に称呼する場合には、全体の語韻語調が近似したものとなり、聴者をして彼此聴き誤らせるおそれがあるものといわなければならない。

そうすると、本願商標と引用商標とは、上記称呼において類似する商標であって、かっ、両商標は指定商品は同一又は類似するものと認め得るところである。

したがって、本願商標は商標法第4条第1項第11号に該当するとした原査定は妥当である。

3  審決の取消事由

本願商標及び引用商標の構成及び指定商品並びに引用商標から生じる称呼についての審決の認定は認めるが、審決のその余の認定、判断は争う。

審決は、本願商標から生ずる称呼の認定又はその称呼と引用商標から生ずる称呼の類否の判断を誤り、もって、本願商標と引用商標とが類似すると誤って判断したもので、違法であるから、取消しを免れない。

(1)  審決は、本願商標から「オージス」という称呼が生じると認定したが、その認定は誤りである。

本願商標を、審決の説示するとおり、最も親しまれている英語風読みに倣えば、「オジス」、「オウジス」、「オギス」、「オ・ジ・アイ・エス」又は「オウ・ジィ・アイ・エス」と読まれるのが通常であり、「オージス」と読まれることはない。

このことは、甲第4号証(研究社新英和辞典)によれば、語頭に「OG」を含んだ英単語の「O」は全て「オウ」(ou)、「オ」(〓)又は「ア」(〓)と発音されており、審決が認定しているように「オー」(〓:)と発音されているものは全くないことが認められることから明らかである。

したがって、取引者、需要者が本願商標を「オージス」と称呼することはないものであり、本願商標から「オージス」の称呼が生じるとした審決の認定は誤りである。

(2)  仮に、審決認定のように、本願商標から「オージス」の称呼が生じるとしても、その称呼と引用商標から生じる「オーディス」の称呼とは類似していないにもかかわらず、これを類似するものとした審決の判断は誤りである。

審決は、本願商標の称呼である「オージス」と引用商標の称呼である「オーディス」との差異は中間部の「ジ」と「ディ」の各音の差異にあるとして、その各音の類否を判断している。

そして、先ず、有声の破擦子音(d〓)と母音(i)との結合音である「ジ」と有声の破裂子音(d)と母音(i)との結合音である「ディ」は、いずれも子音が歯茎音であり、その調音位置を同じくする近似した音であると認定する。

しかし、「ディ」の子音は、上歯の根元へ舌を極く近づけて調音される歯茎音(歯茎の有声破裂音)であるが、「ジ」の子音は、上歯の先端部から若干離れた後方へ舌を置いて調音される有声破擦音であり、調音位置を同じくするものではなく、両者の差異は極めて明らかである。

被告は、日本人は「ディ」(di)を「ジ」(d〓i)と発音することが多い旨主張するが、英語教育が普及した今日において、「Diesel」を「ジーゼル」と、「Building」を「ビルジング」と発音するのは極く稀であり、「ディ」(di)を「ジ」(d〓i)と発音することはほとんどない。

また、審決は、「ジ」と「ディ」とが比較的聴別し難い中間に位置し、必ずしも明瞭に聴取されるとはいえないと判断している。

しかし、称呼の聴別において、称呼の中間位置の音の印象の強弱が問題になるのは、称呼を形成する一連の音の数が4ないし5個を超える場合であり、音の数が3ないし4個の場合には、中間位置の音の称呼の聴別上の印象が特に薄らぐということはない。

このことは、甲第7号証(商標審査基準)において、称呼の全体的印象(音感)は、音数の多少によって大きく影響を受けるため、称呼が少音数の場合には、音調に関する判断に例外が設けられていることからも明らかである(〔注7〕(ハ)(i))。

また、差異音「ジ」と「ディ」とが明瞭に聴取され易いか否かは、称呼される際に、差異音「ジ」と「ディ」にアクセントがかかるか否かによっても大きく変わるものであり、審決がいう差異音の位置のみによって決まるものではない。

即ち、差異音が語頭や語尾にあっても、これにアクセントのかからない場合には明瞭に聴取し難い場合があり、また、差異音が語の中間にあっても、これにアクセントがかかっている場合には明瞭に聴取することができるのである。

したがって、差異音「ジ」と「ディ」にアクセントがかかるか否かを全く検討しないで、単に差異音が語の中間に位置していることから、差異音の聴別が困難であるとする審決の認定は誤りである。

また、審決は、「ジ」と「ディ」の差異音のみを検討しているが、両商標を一連に称呼する場合、後半部の「ジス」、「ディス」は一連に称呼されるものであるから、その音の差異も検討されなければならないにもかかわらず、審決はその検討をしていない。

「ディス」が外来語のみに表れる音であることから、「ジス」と「ディス」とが一連に称呼される場合、その語感を著しく異にするものであり、その差異は、「ジ」と「ディ」を個々に称呼した際の音の差異よりも一層明瞭なものになる。したがって、「オージス」、「オーディス」と一連に称呼した場合、その語韻や語調が近似しているということはできないものである。

なお、指定商品が第11類の分野において、「ORDIS」と「ORBIS」(甲第8号証の1)、「アルディ」(甲第9号証の1)と「アルビ」(甲第10号証の1)が商標登録されている等(その他甲第11号証ないし第18号証の各1の商標の例)、音数の少ない商標の場合には、1音でも異なれば全体的な音感が異なり、両者は非類似と判断されて、商標登録がされているものである。

本願商標と引用商標も以上と同じ関係があり、両者が類似であるとする審決の判断は、実務慣行から外れている。

(3)  以上のとおり、審決は、本願商標の称呼と引用商標の称呼が類似し、もって本願商標と引用商標とが類似すると誤って判断したものであり、違法である。

第3  請求の原因に対する認否及び被告の主張

1  請求の原因1及び2は認める。

2  同3は争う。審決の認定、判断は正当であり、審決に原告主張の違法はない。

(1)  原告は、本願商標の「OGIS」を英語風に自然に無理なく読んだ場合、語頭の「O」を長音「オー」とした「オージス」なる称呼を生じることはない旨主張する。

しかし、「O」の綴字が「オー」と発音されるか、「オ」、「オウ」、「ア」と発音されるかは、それに続く綴字によって異なるものである。

そして、本願商標のように、いわゆる造語よりなる商標にあっては、我が国で親しまれた英語風の発音に倣い、それが無理なく自然に英語風に読み得る場合にはその読み方によって称呼されるものであるところ、「Old」が「オールド」と、「Ocean」が「オーシャン」と、「Open」が「オープン」と、「Over」が「オーバー」とそれぞれ表記され、「オ」音の後に長音(ー)を伴って発音されていること、また、「GIS」の綴字が、「GIST」、「REGISTRATION」、「LEGISLATION」におけるように「ジス」と表記され、普通に発音されている(乙第2号証)ことからして、本願商標の「OGIS」の欧文字も、前記用例に倣い、「オージス」と無理なく自然に称呼し得るというべきである。

なお、仮に、「O」の綴字が原告主張のように「オウ」(ou)と発音される場合があるとしても、「オ」、「ウ」の2音はそれぞれ母音である(o)と(u)が連母音で二重母音を形成する関係上、転化して「オー」(〓:)と長母音に変化して発音され易く、必ずしも単音「オ」、「ウ」として明確に発音され聴取されるものとはいい難く、このことは、連母音と長母音とが、発音上又は聴覚印象上紛れ易いことをも意味しているものである。

したがって、本願商標は「OGIS」の欧文字に相応して、「オウジス」その他原告の主張する称呼が生じるとしても、「オージス」とも称呼されるというべきである。

(2)  次に、原告は、本願商標から生じる「オージス」の称呼と引用商標から生じる「オーディス」の称呼とは類似するとした審決の判断の誤りをいう。

しかし、審決が認定しているとおり、両称呼は「ジ」と「ディ」の音のみ異なり、他は同一である。

そして、引用商標の「ディ」は、「デ・イ」と個別に発音されずに、一音節として一気に発音される音であるばかりではなく、「ディ」(di)の音は、本来外来語のみに現れる音で、日本人はこれを「ジ」(d〓i)と発音することも多く(乙第4号証)、このことは、「Diesel」が「ディーゼル」又は「ジーゼル」と、「Dilemma」が「ディレンマ」又は「ジレンマ」と、同じく「Building」が「ビルディング」又は「ビルジング」と、それぞれ表記、発音されていることからも明らかである(乙第6号証ないし第8号証)。

したがって、両称呼の音構成中の差異音である「ジ」と「ディ」の音は、発音上同一音として表記、発音される場合が多く、かつ、該差異音は、いずれも帯同する母音(i)を同じくする濁音であることよりすれば、両者は、極めて近似する音といえるものである。

以上のことからすると、称呼の聴別上印象の薄らぐ中間において、該「ジ」と「デイ」の音のみの差異が、両称呼の全体に及ぼす影響は決して大きいものがあるとはいい難いから、結局、両商標は、それぞれ一連に称呼する場合、互いに、音調、音感が相似たものとして聴取され、相紛れるおそれがあるものといわなければならない。

なお、原告は、「ジ」の子音は歯茎音ではなく、「ディ」の子音とは調音位置を同じくする音ではない旨主張するが、「ジ」の子音は、審決認定のとおり歯茎音であって、調音位置を「ディ」の子音と同じくするものである(乙第3号証)。

また、原告は、該差異音「ジ」と「ディ」が明瞭に聴取され難いか否かは、称呼された際これにアクセントがかかるか否かによって決まるもので、該差異音にアクセントがかかる場合を全く検討しなかった審決の考え方は誤りである旨主張する。

しかし、いわゆる造語におけるアクセントのかかり方は、必ずしも特定されないのが一般的であり、それに触れなかったとしても、審決に原告のいう誤りはなく、また、仮に該差異音「ジ」と「ディ」にアクセントがかかるものであるとしても、審決は、両商標の称呼全体の対比において、その語韻語調が近似すると認定、判断したものであるから、両商標が称呼上類似するものとした審決の判断に誤りはない。

更に、原告は、両商標の称呼上の差異は、「ジ」と「ディ」の差異ではなく、「ジス」と「ディス」の音の差異が問題とされなければならない旨主張するが、両商標が称呼上類似するか否かは、該差異音を含む全体の称呼にいて判断すべきことは自明のことであり、原告の主張は理由がない。

第3  証拠関係

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

第1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)及び2(審決の理由の要点)は、当事者間に争いがない。

また、本願商標及び引用商標の構成及び指定商品並びに引用商標から生じる称呼については、当事者間に争いがない。

第2  そこで、原告の主張する審決の取消事由について検討する。

1  本願商標から生じる称呼について

原告は、本願商標から「オージス」の称呼が生じるとした審決の認定の誤りを主張する。

確かに、原告主張のとおり、成立に争いのない甲第4号証によれば、「NEW ENGLISH-JAPANESE DICTIONARY」(研究社昭和32年5月2日発行)の語頭に「OG」を含んだ英単語の「O」の部分の発音記号は、全て「ou」、「〓」又は「〓」と記載されていることが認められ、これによれば、語頭に「OG」を含んだ英単語の「O」の部分は、正しい英語の発音としては、「オウ」、「オ」又は「ア」と発音されるものであることが認められる。

しかし、「OGIS」の欧文字からなる造語である本願商標からどのような称呼が生じるかは、英語であれば正しい発音としてどのように発音されるかではなく、取引者、需要者が本願商標の付された商品の取引において通常どのように発音するかにかかるものである。

その際、取引者、需要者は、その欧文字を我が国において外国語として最も親しまれている英語風の読み方をするのが一般であるが(このことは原告も争わない。)、それは、綴りの類似する英語から類推し、英語として正しい発音を探究して発音するというのではなく、単に英語風に自然に無理なく発音できる読み方をするというものにすぎない。

そして、「O」の欧文字は、英語のアルファベットとしては正しくは「オウ」と発音し、「オー」と発音するものではないが、我が国においては、特に発音の正確を期すべき場合でない限り、これを「オー」と発音することの多いことは顕著な事実である。

例えば、外来語として我が国において定着している「Old」は「オールド」と、「Open」は「オープン」と発音されるのが一般である。

なお、このことは、欧文字に限らず、日本語自体にも妥当するものであり、例えば、「王様」は、正しくは「オウサマ」と発音されるべきものであるが、これを「オーサマ」と発音されるのが一般である。

このように、正しくは「オウ」と発音すべき音を「オー」と発音するのは、成立に争いのない乙第4号証(佐藤亮一「音声学・音韻論から見た商標称呼の類否性」弁理士会昭和62年3月17日発行)により認められるとおり、連母音は長母音に変化し易いことによるものである。

したがって、本願商標の「OGIS」の「O」は「オー」と発音され易く、また、全体を「オージス」と発音して英語風の発音として自然であって何ら無理がないから、これを、原告主張のように「オウジス」等と発音されることがあるとしても、また「オージス」と発音されることもあると認めるべきである。

したがって、本願商標からは「オージス」の称呼が生じるとした審決の認定に誤りはない。

2  「オージス」と「オーディス」の称呼の類否について

原告は、本願商標から「オージス」の称呼が生じるとしても、これと引用商標から生じる「オーディス」の称呼とは、称呼において類似しないとして、これを類似するとした審決の判断の誤りいう。

先ず、原告は、本願商標の称呼の「ジ」と引用商標の称呼の「ディ」とは調音位置を異にし、その差異は極めて明らかであると主張する。

しかし、成立に争いのない乙第3号証(日本音声学会編「音声学大辞典」三修社1976年発行)の第120頁及び第644頁によれば、有声の破裂音である「ディ」も有声の破擦音である「ジ」もともに歯茎音であること、したがって、調音位置を同じくする音であることを認めることができる。

そして、成立に争いのない乙第6号証(新村出編「広辞苑」岩波書店1988年10月11日発行)、乙第7号証(三省堂編修所編「コンサイス外来語辞典」三省堂昭和47年6月10日発行)及び乙第8号証(川本茂雄監修「日本語になつた外国語辞典」株式会社集英社昭和60年7月15日発行)によれば、外来語である「Diesel」は「ディーゼル」又は「ジーゼル」と、「Dilemma」は「ディレンマ」又は「ジレンマ」と、「Building」は「ビルディング」又は「ビルジング」と、それぞれ表記、発音されるものであることを認めることができる。

英語教育が発達した今日の我が国において、このうち、「Building」を「ビルジング」と表記、発音する例は少なくなっているが、「Diesel」を「ジーゼル」と、「Dilemma」を「ジレンマ」と表記、発音するのは極めて一般的であることは顕著な事実である。

そして、我が国において、外来語は、聴取した原語の発音に最も近い音となるように表記、発音されるものであることからすれば、以上の例からして、「ディ」の音は「ジ」の音と似通った音として聴取されてきたものということができる。

そして、「ジ」と「ディ」の各音は、その1音のみを対比して聴取すれば、その差異を聴別することは困難ではないが、本願商標や引用商標のように、それらの音が他の音の中間にあって、一連に発音されるときは、その聴別上の印象は薄らいでくることは否定できないところである。

これに対し、原告は、音数が3ないし4個の場合には中間の音の聴別上の印象が薄らぐことはないとして、成立に争いのない甲第7号証(特許庁商標課編「商標審査基準」社団法人発明協会昭和61年6月25日発行)を引用するが、同号証によれば、その〔注7〕として「基準(1)ないし(8)に該当する場合であっても、つぎに挙げる(イ)ないし(ハ)等の事由があり、その全体の音感を異にするときは、例外とされる場合がある。」として、(ハ)(i)に「称呼が少音数であるとき(3音以下)」と記載されていることが認められるのであり、これによれば、称呼が3音以下であり、称呼全体の音感を異にするときは、商標の類否に関する原則的な審査基準がそのまま適用されるものではないとしているにすぎず、本願商標のように称呼の音数が3個であれば、それだけで中間の音の印象は薄れることがなくなり、明瞭に聴別されるとするものではない。

そして、本願商標と引用商標との称呼上の差異は中間の近似した音である「ジ」と「ディ」のみにあり、他の音は同一であるから、各商標を「オージス」、「オーディス」と一連に称呼した場合、全体として似通った音調、音感のものとなり、相紛らわしいものとなる。

したがって、「オージス」と「オーディス」とは称呼上類似しているものというべきであり、これと同趣旨の審決の判断に誤りはない。

なお、原告は、審決は、「ジ」や「ディ」にアクセントがかかるか否かを検討することなく、称呼の類否を判断したことの誤りを主張するが、本願商標も引用商標も造語であり、正しいアクセントのかかり方はないものであり、審決が特にその点を検討しなかったからとして、判断に不充分な点又は誤りはない(因みに、本願商標及び引用商標について英語風の発音をすれば、通常「オー」の部分にアクセントがかかり、「ジ」や「ディ」の部分にアクセントはかからないのが一般であるから、アクセントのかかる「オー」の次にくる「ジ」と「ディ」の音の聴別上の印象はより薄らぐとして、一層の強い理由をもって、両称呼は紛らわしいと判断されることになる。)。

したがって、審決の称呼の類否の判断方法の誤りをいうかのごとき原告の主張は理由がない。

また、原告は、「ジ」と「ディ」の差異だけではなく、「ジス」と「ディス」の差異をも検討しなければならないにもかかわらず、審決はその検討をしていない旨主張する。

しかし、両称呼が紛らわしいか否かは称呼全体から、即ち、両商標を一連に称呼して判断されるべきものであるが、審決は、一連に称呼される場合の差異を検討するため、両称呼の相違する部分である「ジ」と「ディ」の音の差異を検討したのものと認められ、その判断の方法に不充分な点又は誤りはなく、これに加えて、更に原告主張のように、「ジス」と「ディス」の差異を独立して検討することの必要はない。

また、原告は、指定商品が第11類の分野において、「ORDIS」と「ORBIS」(甲第8号証の1)、「アルディ」(甲第9号証の1)と「アルビ」(甲第10号証の1)等音数の少ない商標で1音のみが異なるものが非類似として商標登録されていることを挙げて、本件に関する審決の判断を実務慣行に外れたものと論難するが、原告の挙げる商標登録の例は本件とは事案を異にするものであるのみならず、そのような行政先例は当裁判所の判断に何ら係わるものではないのであるから、この点について検討するには及ばない。

3  以上のとおり、本願商標と引用商標とが類似するとした審決の判断に誤りはなく、審決には原告主張の違法はない。

第3  よって、審決の違法を理由その取消しを求める原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条の規定を各適用して、主文のとおり、判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 成田喜達 裁判官 佐藤修市)

別紙

本願商標

〈省略〉

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